「ぁあ……」
「上質な羽衣を手に入れるためには、きみの身体を淫らにする必要があるんだ。恥ずかしがらないで、すべてを僕に委ねて」 「んっ」抵抗できない状態で毎夜、柚子葉が山桜桃の身体を愛でていく。すべては羽衣のためと言いながら、彼は少しずつ彼女を官能の海へ誘っていく。
「可愛いよ、ゆすら。明日は胸を中心に気持ちよくしてあげるから。この手で淫らな天女になるんだよ」
「~~~ッ!」太ももの付け根を揺すられて、秘芽を指先で捏ねくりまわされて、すでに山桜桃は絶頂に至っている。
柚子葉が使う香油に媚薬が入っていることなど知るよしもなく、山桜桃はいやらしい気持ちを覚え始めていた。 こんなのおかしいと、義兄に監禁されて身体を調教されるなんて、とあたまの片隅では思っていても、夜になると身体は疼いてしまう。 早く彼の手で逝かされたい……と。 * * * 甘ったるい香油の香りが山桜桃の身体を侵食していく。気だるい身体は火照ったまま、昼夜問わず柚子葉にふれられるのを期待するようになる。淫らな天女が上質な羽衣を仕立てるのだという柚子葉の言葉に従って、素直な山桜桃は堕ちてゆく。「足をひろげてごらん」
「あっ……いけませんゆずにぃ」 「抵抗しないで」 「ふっ――アぁっ!?」カシャン。両足をひろげた状態で枷をつけられた山桜桃は、そのまま彼に口付けられて軽く達してしまう。
「接吻だけでこんなに濡れるようになるなんて。いけない子だ」
「ふあぁあっ」 「乳首が物欲しそうに勃っているよ。僕が美味しく食べてあげるからね」 「アッ……んっ」恥ずかしい体勢のまま寝台に磔にされた全裸の山桜桃を、軍服姿の柚子葉が舐め回していく。政府軍との緊張状態が続いているからか、ここ数日の柚子葉は山桜桃の前でも嗜虐性をむき出しにしている。栄華を与える天女の羽衣を持つという義妹を自分の手元で監禁し、淫らに躾けていく義兄はひたすら彼女を絶頂に追いやっていた。山桜桃は未通の蜜園
* * * 天神の娘の所在が明らかになったと帝の三番目の息子、於環(おだまき)のもとに届いたのは、山桜桃が襲撃されて十日ほど経った頃のことだった。 彼女は空我本邸の地下で義兄の柚子葉が張った結界に保護されているという。「結界ねぇ」 そのようなまやかしでかの国の玉座を守護しつづけている皇族を騙せるとでも思ったのだろうか。だとしたら愚かだ。兄上がわざと見逃しているようにしか思えない。 じゃらじゃらと耳障りな音を立てながら於環は反芻する。 天神の娘が持つという羽衣はかの国の権力者を惑わす危険なものだという。過去に山桜桃の母が北大陸の内乱を引き起こしたように。けっきょく彼女は帝が羽衣を奪ったが、後継を産めなかったからと空我侯爵に押し付けてしまった。まさかそこで新たな天神の娘を産み落とすとは考えもしなかったのだろう。安直な父帝らしいと於環は苦笑する。「於環様、組織の上層部にいる空我柚子葉は義妹である山桜桃の羽衣を奪うことなく、掌中におさめております。これはいったい」 「あの男か。父は娘を渡せば生命まではとらないと口にしていたが、十中八九葬るだろうな」 そもそも於環は山桜桃という天神の娘を知らない。父帝は天神の娘など羽衣を奪わぬ限り国を揺るがす悪女でしかないと罵っているが、ほんとうにそうなのだろうか。「それより……父は母親だけでなく娘の純潔も奪おうとしているのか。俺はそっちの方がおぞましい」 皇位に執着している父を見ていると政変も致し方なしと思う時点で自分は彼と袂を分かつ運命にあるのだろうと於環はため息をつく。 だから皇城の片隅で、父から危険分子扱いされて監視つきで囚われているわけだが……すでにその監視、堅九里(かたくり)も於環の配下に覆っている。 じゃらじゃら、趣味の悪い白金の枷が手首を戒めている。本気になればこのような玩具、すぐにでもはずせるが、於環がいま動けば実の息子だろうが父帝から粛清の対象として処刑されかねない。 ――それでもいい加減話のわかる堅九里に見つめられながらのこの監禁生活には飽きていた。「だからといっ
「ぁあ……」 「上質な羽衣を手に入れるためには、きみの身体を淫らにする必要があるんだ。恥ずかしがらないで、すべてを僕に委ねて」 「んっ」 抵抗できない状態で毎夜、柚子葉が山桜桃の身体を愛でていく。すべては羽衣のためと言いながら、彼は少しずつ彼女を官能の海へ誘っていく。「可愛いよ、ゆすら。明日は胸を中心に気持ちよくしてあげるから。この手で淫らな天女になるんだよ」 「~~~ッ!」 太ももの付け根を揺すられて、秘芽を指先で捏ねくりまわされて、すでに山桜桃は絶頂に至っている。 柚子葉が使う香油に媚薬が入っていることなど知るよしもなく、山桜桃はいやらしい気持ちを覚え始めていた。 こんなのおかしいと、義兄に監禁されて身体を調教されるなんて、とあたまの片隅では思っていても、夜になると身体は疼いてしまう。 早く彼の手で逝かされたい……と。 * * * 甘ったるい香油の香りが山桜桃の身体を侵食していく。気だるい身体は火照ったまま、昼夜問わず柚子葉にふれられるのを期待するようになる。淫らな天女が上質な羽衣を仕立てるのだという柚子葉の言葉に従って、素直な山桜桃は堕ちてゆく。「足をひろげてごらん」 「あっ……いけませんゆずにぃ」 「抵抗しないで」 「ふっ――アぁっ!?」 カシャン。両足をひろげた状態で枷をつけられた山桜桃は、そのまま彼に口付けられて軽く達してしまう。「接吻だけでこんなに濡れるようになるなんて。いけない子だ」 「ふあぁあっ」 「乳首が物欲しそうに勃っているよ。僕が美味しく食べてあげるからね」 「アッ……んっ」 恥ずかしい体勢のまま寝台に磔にされた全裸の山桜桃を、軍服姿の柚子葉が舐め回していく。政府軍との緊張状態が続いているからか、ここ数日の柚子葉は山桜桃の前でも嗜虐性をむき出しにしている。栄華を与える天女の羽衣を持つという義妹を自分の手元で監禁し、淫らに躾けていく義兄はひたすら彼女を絶頂に追いやっていた。山桜桃は未通の蜜園
* * * 柚子葉によって地下牢の鉄格子と左手首に鎖をつけられた山桜桃は、動きを制限された状態で日々を過ごしていた。幸い、鎖が長いため不浄の際にひとりで出歩けることと、夜には戻ってくる義兄によって身体を清められ、新たな夜着に着替えさせられ、設置された寝台で眠ることができた。食事は夜に運ばれてくるだけだが気軽に食べられるパンや日持ちする饅頭などを多目に持ってきてくれたのでひとりの時も食事に困ることはなかった。「鎖で拘束しなくても、わたしは逃げませんよ」「敵を欺くためにはまず味方からと言うだろう? いまのきみは僕に囚われた姫君なんだ。だから地下牢とはいえ待遇は良い、わかるね」「あ、はい」 柚子葉は打倒帝を掲げる反政府軍の上層部として活動をしている。昼間は革命に向けての会合を取り仕切り、夜になると監禁している天神の娘のもとへ戻り、世話をする。もっとひどいことをされるのかと思っていた山桜桃は拍子抜けしてしまった。 本邸にはもともと結界が張られているため、日中柚子葉が不在にしていても他人がこの地下牢まで辿り着くことは困難である。とはいえ、山桜桃がひとりで逃げださないよう鎖で繋いでおきたいという柚子葉の気持ちもわからないでもない。「姫君だなんて。それにわたし、羽衣なんて知りません」「知らない方が幸せかもしれないよ」 ただ、ずっと地下牢にいるから朝と夜の区別がつかなくなってきている。あの襲撃の日からどのくらい時間が経過したのかもわからない。 いまは毎日のように柚子葉が地下牢に通いつめているけれど、彼の身に何か起きたら自分はここで野垂れ死ぬことになるだろう。それともそうならない根拠が義兄にはあるのだろうか。 羽衣のことも、山桜桃の前でははぐらかしてばかりだ。それがこの国における“玉爾”のようなもので、天神の娘なら誰もが持っているものだというのは薄々感じることができる。柚子葉は山桜桃が羽衣を持っていると確信しているらしい。だからこうして監禁しているのだ。そのうえ。「もう、義兄に肌を見せることには馴れてしまったかい?」「ゆずにいの意地
山桜桃と柚子葉の父は侯爵位を持ちながら国に仕える軍部のなかでも特別な任務につく第零部隊の長官である。山桜桃の母は北の大地が制圧された際に戦利品として連れてこられた現地の若い女性のうちのひとりだ。もともと巫女としての能力が高かった彼女はかの国の帝に捧げられたというが、一年後に柚子葉の父に下賜された。栄華を与える天神の娘を手放した帝を愚かだと嘆く者もいたが、彼女が帝を怒らせる予言をしたからだとか、子を為せない石女だから皇城から追い出されたのだという噂が定着したことで事態は鎮静した。むしろ子を為すことのない羽衣を奪われた娘を下げ渡された柚子葉の父に同情の目が向いたのである。「きみの母上は帝によって羽衣を奪われ、役目を終えたと判断されて僕の父の公妾となった。だが、ゆすら、君が生まれた……皇家から石女だと蔑まれた彼女から、羽衣を持つ次の天神の娘が」 「帝にはお伝えしていなかったの?」 「ゆすらの存在はごく一部の空我の人間にしか知られていないよ。ずっと別邸で暮らしていたのはきみが妾腹の娘だからという理由もあったけれど、外部に秘匿しておくためだったんだから」 「で、でもそんなことできるわけない」 「そうだね。現に漏れてしまった。だから帝は激昂した。父は弁解する暇も与えられることなく粛清された。そこから軍部で内乱が起きた。帝に従う者と反発する者のあいだでいまも外は緊張状態に陥っている」 「……え」 「天神の娘がいるから国が乱れるのだという過激な思想を持つ一部の人間がきみを害そうとしたんだよ。そのなかにはたぶん、僕の母親も含まれている」 「わたしがいたから、お父さまが死んだ、と」 「その母上も帝に粛清されたけどね」 よけいなことをするなと、帝は侯爵家の人間を次々に粛清していった。 むしろ柚子葉が生き残っている方が不思議なくらいだ。「それじゃあゆずにいは?」 「僕に向かって帝は言ったんだ、『天神の娘を殺してはならぬ、羽衣をよこせ』と。そうすれば生命までは奪わないから、と」 そして別邸へ山桜桃を迎えに行ったところで、あの襲撃と遭遇したのだ。あのとき彼女が犯されていたら、と思うと柚子葉は恐ろしくなった。「……じゃあ、わたしを牢に閉じ込めたのは命乞いのため?」 「ひどいなあ。きみを生け贄に生き延びようなんて僕がそういう悪人に見える?」 「だって、わた
* * * レエスの緞帳(カーテン)で飾られた天蓋つきの寝台で瞳を閉じて横になっていた山桜桃は、柚子葉に揺り起こされて、ゆっくりと瞼をあげる。「動けるか?」 どこかで衣類を調達してきたのだろう、濃紺のシャツ姿の柚子葉が山桜桃に問う。 こくりと頷いて、立ち上がる。けれど、身体はまだふらついている。見かねた柚子葉は山桜桃の肩を抱きかかえ、ゆっくりと歩き出す。 裸足のまま、寝室を出る。ぬるりとした冷たい感触が、足元を浚う。 廊下は、血の海だった。山桜桃の知る兵隊のような使用人たちが、重なるように動かなくなっている。 山桜桃はおおきな瞳を更におおきくして、廊下の惨状を見つめ、凍りつく。「この邸の使用人は、皆、殺されてしまったんだ……」 信じたくなかった。けれど頭の片隅でその可能性を考えていた。だから山桜桃は柚子葉の言葉に反論せずに黙ってその光景を漆黒の眼の中に焼き付ける。「わたしの、せい、でしょ?」 蒼褪めた表情で、柚子葉を見上げ、山桜桃は確認をとるように、口をひらく。 自分がここにいてはいけない人間であることを、知っていながら、知らないふりをつづけて別邸で暮らしていた山桜桃は、いまになって起こってしまった現実に、戸惑いを隠せない。 柚子葉は黙ったまま山桜桃の肩を抱く手に力を込めて、滑りそうな螺旋階段を一歩一歩、くだっていく。「そうだね……ゆすらがこの場所にいるから。だけど、僕はきみを手放せない」 そして――ごめんね、と微笑む義兄に連れていかれたのは、薄暗い地下牢だった。 * * * かつて。 かの国の北端に位置する大陸に、春を喚ぶ天女が舞い降りたのだという。冬将軍を追い払い、凍りついた大地を溶かし、緑を芽吹かせ、人々が暮らすことのできる土地を築いたという天女が。「天神の娘とは、その天女の末裔のこと。天女の末裔は栄華を与える羽衣を持っている。俺の父親は帝から北の大地の戦功を讃えられ、天神の娘であったきみの母親を下賜された」 「知ってる。そして生まれたのが、あたしでしょう?」 「ああ。羽衣のことは」 「初耳……お母さまは何も言わないで死んじゃったから」 「そうか」 惨劇が起きた場所からすこしはなれた本邸の地下に、山桜桃は囚われていた。義兄が山桜桃を地下牢に閉じ込めたのは、ほかの人間に奪われないためだと
山桜桃の部屋には似合わない、空の薬莢が床の上に転がっていた。「殺したんでしょ?」 「……ああするしかなかった」 意識が薄れていくなかで聞いた銃声は、何度嗅いでも慣れることのない硝煙の匂いは、山桜桃を狙った侵入者を殺めるために響いたもの。気づいてはいたが、つい、柚子葉を責めるような口調になってしまった。「そうしないと、ゆすらも殺されていただろうから……」 苦しそうな柚子葉の声をきいて、山桜桃はそれ以上問いただせなくなる。使用人たちはどうなったのか、ふだん離れて暮らしている義兄が時宜(タイミング)よく現れたのはなぜか、どうして自分が殺されそうになったのか、男が口にしていた天神の娘とはどういうことなのか……柚子葉なら、知っているのだろうか? 黙りこんだ山桜桃を、柚子葉は抱き上げて寝台の上へ横たわらせる。ゆっくり休めということだろう。 山桜桃は敷布の上へ裸体を横たえた状態のまま、夜着をかけようとしている柚子葉の困ったような顔をうかがう。「ゆすら……頼むからもうちょっと、警戒心を持てよ」 もう成人したのだからと苦笑しながら、柚子葉は山桜桃の身体に夜着をかけ、上掛けを手渡し部屋から立ち去ろうとする。 「待って……!」 夜着をはだけさせ、山桜桃は起き上がり、柚子葉の腕を咄嗟に掴み、自分の方へ引寄せる。どこにそんな力が残っていたのか、油断していた柚子葉は呆気なく均衡(バランス)を崩し、山桜桃を巻き込みながらふかふかの寝台の上へ身体を沈ませる。 真っ白な敷布に新たな皺が刻まれていく。 「……ゆす、ら?」 至近距離で見つめられ、柚子葉は自分が彼女を組み敷いた状態でいるというのに、動けなくなる。 山桜桃は陶器のような肌を義兄に見せたまま、すこしだけ顔を赤らめて、身体を震わせる。 「ひとりに、しないで」 その瞬間、柚子葉は瞳を潤ませ訴える異母妹を抱きしめていた。 ひとりにしないでと懇願する山桜桃を見て、いままで抑えていた何かが、堰を切って溢れ出してしまう。おそるおそる、少女の素肌に手を伸ばし、抵抗しない唇に、自らの指を伝わせる。 唇から喘ぐような吐息が零れ落ち、柚子葉の指先を柔らかく湿らせる。その指で鎖骨をなぞると、くすぐったそうに身をよじらせ、困ったように微笑を返す。そのまま、指先を膨らみかけの胸元へ滑らせて、肌の熱さにハッとする